迷走する鎌倉市 御成小学校旧講堂の惨状
前回、旧図書館の解体問題でシンポジウムに参加した鎌倉だが、その続きとして建物内部の見学会があった。市の担当職員の案内での特別公開ということもあってか、多くの人々が見学に来ていて、市民の関心の高さをあらためて知った。さらに、旧図書館と合わせてその隣に立つ御成小学校の旧講堂も見ることができた。昭和8年に建設されたこの講堂は、御成小学校全体の改築計画の中で保存か解体か結論が先送りにされ続け、その間の20年近くずっと倉庫としてしか使われず、方針が決まらないため修復すら手つかずの放置状態のまま現在に至っている。今年になって調査費の予算としてやっと400万が計上されたところだ。 外観は学校の施設らしからぬ印象で、まるでお寺かと思うような構えをしていて、屋根の上に突き出る2対の櫓のようなものが特徴的である。中に入ると、大空間を覆う格子の天井にやはり寺社仏閣建築を彷彿とさせられ、さすが鎌倉という感じがする。しかし、それがただの物置となってしまっているというのだ。ところどころ天井がはがれ落ちていて、そこから雨水が漏れているのを床でバケツとブルーシートが受けて止めている。見学者は危険ということで全員ヘルメットを着用させられた。なんとも痛々しい状況である。木造建物に漏水は危険信号である。木材は水に弱いので長年の湿気でどんどん腐っていってしまう。それは虫歯を放置することと同じで、そのうちに歯を抜くしかなくなってしまうだろう。
旧図書館のほうは教育センターとして使われているが、2階部分はあまり利用されてはいないようだった。外観の特徴になっていた縦長の窓は、中から見ても雰囲気があるし、もったいないと思った。建物奥の書庫だった部分はスキップフロアで、そこだけ3階建てになっている。細い階段を上ると、秘密基地のような部屋にたどり着き、頭上に屋根組みが見渡せるようになっていて山小屋風でもある。ここの独特の雰囲気にいろんな空間活用のイメージが頭の中から次々と湧いてくる。それだけの魅力が十分にある。また、梁などを見てみるとひと目で建物の造りの丈夫さが分かるものだった。建物が古いから耐震性に劣ると考えがちだが、あながちそうでもない。特に戦前の木造建築はなかなかしっかり建てられていることが多い。それにしても、各所の傷み具合がひどい。先ほど虫歯の例えをしたが、こういうのは放置するほどかえってお金がかかってしまうものだから、それを放置するということは税金を捨てているのと等しいと考えるべきで、市職員はそのことをしっかり感じてほしい。 さていずれにしても、ここは鎌倉駅の目の前でとても立地が良く、なおかつこの味わい深い木造の建物と、さらには周囲が豊かな樹木に囲まれているとあって、そのポテンシャルを最大活用できない管理者は民間企業であれば能無しとされてすぐに担当を外されるだけだろう。また、時間の経過とともに進行する建物の物理的な劣化現象が、資産の垂れ流しとイコールであることをよく理解して、速やかに手を打つことが大事である。
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