小さな町にたくさんの観光客、小布施町のオープンガーデンに学びたい
長野県の北部に位置する小布施町(おぶせまち)は、人口わずか1万ほどの小さな町であるが、まちづくりの成功事例としてよく知られた町であり、年間100万人がこの町を訪れる。それは、行けば分かる。蔵や古い商家などの歴史的な街並みにクオリティの高いショップや飲食店があちこちにあり、1日では回り切れないほどある。それだけ聞けば、京都をはじめ、関東なら川越など、そういう街を思い浮かべるだろうが、小布施にはそれらとは違う雰囲気がある。それはやはり、小布施独自の「オープンガーデン」があるからだろう。
小布施のまちづくりの歴史を簡単に振り返ってみる。昔からリンゴ栽培が盛んで、県下一の生産量を誇るほどだったが、高度成長期に人口が激減し、危機に陥った。そこで、70年代に入り、当時できたばかりの都市計画法を活用したまちづくりに着手し、過疎からの脱却に成功した。そうした人口増により町開発公社が得た資金を活用して「北斎館」をオープンさせた。小布施は北斎が晩年過ごしたゆかりの地だ。これが、観光客を呼び込むきっかとなった。80年代にはいると、「町並み修景事業」が始まった。民間、行政、銀行、地権者などが力を合わせて、整備がすすめられた。建築家をコーディネーターに立てて、単に町並みを保存するだけでなく、コンセプトに沿った新しい景観を作っていくことにも力を入れたのだった。90年代には、米国人のセーラ・マリ・カミングスがここの酒造場に入社し、小布施の世界的な認知度をさらに押し上げた。
並行して、「フローラルガーデンおぶせ」として花によるまちづくり活動が動き出した。まず、ヨーロッパに研修に行くなどの人材育成から始められ、のちに「おぶせオープンガーデン」へとつながっていった。オープンガーデンとは、個人の庭を町に訪れる人々に開放し、自由に立ち入ってよいとするものだ。セキュリティやプライバシーにうるさい昨今の日本において、この寛容さは驚きに値する。現在、130軒を超える家々がご自分の庭を花できれいに飾り、オープンにしている。これを見て歩いていると、とても心が和む。それは、木々や花々の美しさもあるが、それらを大切に育て、共に楽しもうとする住民の方々のおもてなしへの感動も大きい。
私は常々、まちづくりや地方創生や、空き家問題などに関しても、それに関わるひとりひとりの「主体性」が鍵であると考えている。反対に言えば、よくある行政主導のまちづくりの失敗は、この主体性を無視した上からの押し付けになってしまっていることが多い。小布施の歴史を振り返ってみても、たしかに行政の介入もあるが、民間や地権者、住民が主体となってここまで来た。小布施に住む人々の誇りと努力が、さらなる住民を呼び寄せ、その連鎖が繰り返されている。このことは、容易には真似できることではないが、時間をかけてやっていこうとするならば、今すぐからでも始められることである。
小布施のまちづくり
https://www.town.obuse.nagano.jp/town-development/docs/about.html
小布施堂 110万人が訪れる観光地を実現した和菓子店
https://www.projectdesign.jp/201504/pn-nagano/002054.php
Wendy-Net「里山の素晴らしさを未来の世代に伝えたい」
https://wendy-net.com/mswendy/backnumber/ms201510/
小布施町(ウィキペディア)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%8F%E5%B8%83%E6%96%BD%E7%94%BA
オープンガーデンにより個人の庭が「開放」されている
家々の間の小道が散策路として開放されていて、自由に立ち入ることができる
時々「ここまで入ってしまってよいか」迷うこともあるが、ダメな個所はちゃんと立入禁止の表示がある
蔵を改装したスイーツ店は予約しないと入れないほど
古い建物の内部は、驚くほどにモダンなデザインが施されている
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